根雪の下
「見ろよ水戸部!雪だぜ!雪!」
そう言って子供のようにきゃっきゃと走り出すコガに水戸部は転ぶかもしれないから気をつけて、と言いたそうな顔でオロオロとし始めたがコガは全く気にしていない。
「しっかし寒い寒いと思ったら雪降ってくるなんてなー」
「(積もるかな?)」
「積もったら雪だるま作ろーぜ!」
「(うん、いいよ)」
温暖化のせいで雪は降らないだろうという予報を聞いていたので期待はしていなかったのだが、
実際降ってみるとやはり楽しいものだなと水戸部は思ったがあえて口に出さないようにしてはしゃぐコガを見た。
「見てみてねこだるま!」
「(かわいいね)」
「だろー?これ顔作るの結構難しいんだぜ!」
そう言って小さな猫の形をしたかわいい雪だるまを水戸部に自慢げに見せ無邪気に笑う。
その笑顔に水戸部は少し胸が痛む、一緒に帰ったり雪ではしゃいだりして。
あと何回一緒にいられるのだろう、水戸部はそう思うと胸が重くなるようなきしむような感覚がする。
「水戸部?どしたの?」
「(なんでもない、よ…)」
「えー、本当かよー」
言葉を濁すようにニコリと笑うとコガは、ならいいんだけどなーと言って雪だるまを足元に置きまた歩き出した。
「つか、今日の進路規模の紙渡されちゃったけどさーイマイチ実感わかないよなー水戸部なんかしてる?」
「(一応勉強してるよ、コガは?)」
「俺もおーんなじ」
将来の事なんてまだわかんねーよなーと明るい声で言うコガに水戸部は無言でうなずいた。
「(俺は…)」
「んにゃ?どうした水戸部?」
まだ俺はコガの側に居たいなんてあまりにも欲張り過ぎている、言えるわけが無い。
「(なんでも無い、よ)」
そう言ってコガの歩幅に合わせて歩き始めた。
どうかこの思いは、この思いだけは気づかれませんように。
***
水戸部はたまに遠くを見る癖がある。
その目は遠くの景色を移しているのか、遠い未来を見ているのかコガにはわからない。
わからないけれど、水戸部の想像する未来に自分が存在しているのかと考えると怖くなる。
「水戸部ー」
「(な、なにコガ?)」
「…明日は積もるかなー?」
水戸部の通訳だと言われているが必ずしもその通訳があっているかはわからないし、そのうち水戸部が自分の口から話す日がくれば必然的に通訳の存在は必要なくなる。
それでもずっと一緒にいたいと思うのはわがままだろうか。
なんて事を考えながらはぁーと白い息を吐きながら空をみると真っ黒に近い灰色からしんしんと雪が降りてくる。
こんなに必死に恋をしていてもこの思いを伝えると今の関係は壊れてしまう、伝えてはいけないけれど伝え無いと心の中にも重く黒い何かがしんしんと積もって行く。
好きだよ水戸部ずっと一緒がいい、なんてこんな綺麗で醜い感情はまるで毒の花だ。
美しく咲き乱れて毒を撒き散らすこの思いに早く蓋をしないと行けない、きっとそれが一番良い方法なんだ。
二人は同じようなことを思いながら帰路についた