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短編

うそつきの代償


「葉山の成績がヤバイ」

深刻そうな顔で根武谷との深夜のSkypeビデオ会話が始まった。

「いや、まずは聞いてくれ。最近葉山のやつが東京のデートスポットの本を読んだりして勉強がおろそかになりがちだとは思っていたが…理科がついに一桁を獲得して…な…」

はぁあぁあ…と思いため息をつく根武谷は頭を項垂れた、どうやら自体はかなり深刻らしい。

「あいつはもともと理科は苦手だったんだが最近余計に苦手になったって言うか…うん…うん……」

どんどん落ち込み画面には後頭部しか写って無い、水戸部はオロオロとしたが根武谷は変わらず落ち込んでいる。
連帯責任としてかなり怒られたのか、教えたのに全く成果が出なかったのか、わからないがどうやらこの落ち込み方からして相当ヤバいのだろう。

「そこで、東京に住んでいて葉山の恋人で理科が得意な水戸部に葉山の家庭教師を頼みたい、これは俺からの頼みじゃなくて洛山バスケ部一同からの頼みだ…!頼む…!」

ゴッ!と鈍い音がイヤホンから鈍い音と画面には再び根武谷の後頭部が広がった。
東京在住で葉山の恋人の水戸部はため息をついてLINEを開いてメッセージを送り、帰ってきた返信を根武谷ね見せた。

「それでうまく行くのか?」
「(可能性が無いよりましです、俺にも責任はあるし腹をくくります)」
「うまく行ったらお礼に八つ橋と牛丼おごってやるよ…!」

たまには違うのがいいなぁ…と思ったがそこはもらう立場なので黙っておいた方がいいだろうと苦笑いをした。


   *


あんな約束するんじゃなかった、あの時の自分をめちゃくちゃに叱りたい、叱り飛ばして殴りたい。
そう過去の自分を悔やみながら水戸部は今ラブホテルのソファーに座り目の前でカバンからいろいろ出している葉山を見つめている。

「(本当は頭いいんじゃないの?)」
「水戸部が『テストで全教科95点以上取れたらなんでもしてあげる』って言われたらそりゃなにがなんでも取らなきゃってなるのは普通だと思うけどなー」
「(…そうだね)」

だからといって初めてのラブホテルでアブノーマルな抱かれ方をするのははっきり言ってすごく怖い、しかし心の何処かで葉山が95点以上取れないだろうと高を括っていたことは事実だ。

「じゃあーお風呂入ろっか!」
「(う、うん)」

どんなことをされても泣き言は言わない、そう心を決め服を脱ぎ曇りガラスのドアを開けた。

「水戸部水戸部!泡風呂とゼリー風呂とバラの花びらが出てくる丸い入浴剤のどれがいい 」
「(バラのやつかな)」
「わかった!今のうちに体洗っとこ!ボディーソープは石鹸の香りとイチゴのどっちがいい?」

何かが違うような気がすると思い、小さな違和感を感じたがこの違和感を解明するほどのエロに関する知識がなければ経験もないことに改めて気づかされた。
水戸部は葉山に言われるがまま背中をお互いに洗い合い、好きなNBAバスケ選手のすごいところを話しあい、二人でバラの花びらが浮いた乳白色の湯船に浸かった。

「やっぱドリブルは早くバーッてやってババァン!ってしなきゃダメだよなー」
「(あの、さ葉山…葉山はこの後俺をどうしたいの…?)」
「ふぇ?」
「(だから!その、恋人とホテルに来て…一緒に、お風呂入って…この後俺は葉山にどうされるの?)」

言葉の意味を理解した葉山はじわじわと頬を赤らめ、だって…と話出した、これではこちらが欲しがっているようでなんだか不服だが、いつ来るかわからないものを待つほど図太い神経はしていない。
聞かれないならこちらから聞くまでだ。

「だって、そーゆーのはお互いおんなじ気持ちになんないとダメだし。そりゃあ俺だって水戸部としたいけど、でも赤司が『まずは裸の付き合いから、それからベットで軽く話してからじゃないと』って。」
「(軽く話した後は、どうするつもりだったの?)」

静かに問い詰めるように話すと葉山は言わないとだめ?どうしても?とアイコンタクトをとってきたが、水戸部は表情を変えることなく見つめ続けるととても恥ずかしそうにしながらかすかに話し出した。

「話した後は、その、それとなく、シよって言うつもり、でした…っでも!でも水戸部にそんなむりゃりとぁしないから!!あっちがっ!『無理やりとか』はしないから!!ほんとに!!」
「(葉山落ち着いて、深呼吸して)」

恥ずかしさのあまり半泣きどころか泣き始めた葉山の顔を拭き、よしよしとなだめながら水戸部はゆっくりと話し出した。

「(あのな、葉山)」
「?」
「(俺は葉山と付き合いだしてから、ずっと葉山しか見てないんだ、葉山しか見えなくて、いつも抱き着かれるたびにドキドキしてるんだ。なのにこんな状況になっても何にもされなかったから…いやでも意識しちゃうのは、俺だけかなって思っちゃったよ)」
「…っ!」
「(でもさっき葉山の気持ちがわかってよかった、お風呂出てベットでバスケのDVDでも見よっか)」
「なんで知ってんの?!」

さっきカバンから見えたよと言うと葉山は見られていたんだ…と呟やき湯船から出ようとする水戸部の手をつかんだ。

「(、?どうしたの)」
「あ、のさ。すげー変に思うかもしれないけど、今すっごい水戸部にぎゅってされたい」

プラトニックノイズ

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