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nostalgia

WCが終わると同時に木吉の膝は日本の医学では治せないほどに壊れてしまった。
本人はある程度覚悟していたが祖父母と両親違ったようで日本より進んだ医療が受けられるアメリカに木吉を入院させて治療することになった。


「出国する時はみんな空港まで来て一年とリコが泣きながら見送ってくれたよなー」
「なー、じゃねぇだろこのダァホ、それでいったいこんな夜中に何の連絡だスカイプならこないだ俺とお前と伊月でしただろ。」

今は昼だぞひゅーが、と笑ってとぼける木吉に日向はいつものようにダァホと一喝した。

「それでお前に相談なんだが…この頃メールとかで水戸部とどんなふうに話しかけたらいいか分からなくなってきたり時々出国する時の水戸部の表情が夢に出てくるんだ…」
「… 。 」

一体どう思う?と言った後に日向はため息をついてお前それは…と言いかけたがすぐに言うのやめて黙った。

「率直に聞くがお前水戸部のことどう思ってる?」
「どうって…どういう意味だ?」
「好きか嫌いかってことだ」

日向がそう言うと木吉はすかさず、俺はみんなのことが大好きだぞ!と言ったらまたダァホ!と一喝された。

 

「そうじゃねえよ!俺が思うにお前は多分水戸部が好きなんだよ!それぐらい自分で気づけこのダァホ!」

 

何を言っているんだ日向は、俺は水戸部ことが好き?いやだって俺は水戸部のことを友達だと思っていたのに…

頭の中でぐるぐると考えていると、自分自身では気かなかったが水戸部の笑顔が木吉の記憶の中に深く刻まれていたことに気づいてしまった。

 

「お前今部活のこととかいろいろ思い出してんだろうけどよ、その中に水戸部がいなかった記憶はあるのか? 」

「そんな記憶…俺にはねーわ… 」

 

頭の中の水戸部の記憶どころか木吉の記憶の中心にまでいつも笑っている水戸部がいる、うれしそうに笑いながらこちらに視線をむける水戸部の記憶しか木吉は持ち合わせていなかった。


「日向…どうしよう俺水戸部が好きみたいだ!!なんで今まで気づかなかったんだろう!日向はすごいな魔法使いみたいだ!」
「お前がバカなだけだよ」

 

*******

それから日向の行動は早かった。
何も知らない伊月を巻き込み、同窓会をやろうと計画しバスケ部一同に連絡を取り木吉退院記念の同窓会として水戸部に話しかける場を儲けた。

それは木吉がアメリカに入院してからちょうど3年後の事だった。

 

「つーわけで!木吉の退院を祝って!カンパーイ!」
「「「「カンパーイ!」」」」

「木吉先輩の足が治って本当によかったです」
「しばらく日本にいるんだよな?です!」
「痛くなったらフリがテーピングしてくれるらしいっすよ!」
「頑張れよフリ!」
「おおお俺そんな事言ってないよ⁈」

 

次々と話し出す後輩たちに懐かしさを込み上げてくると同時にコガと水戸部の会話が耳につく、実際に話しているのはコガだけだけれども。

 

「水戸部のところどう?え、そりゃ俺のとこはレポートヤバイよーでもそこはお互い様だろー?」

 

ケラケラと笑うコガの横で静かにクスクス笑う水戸部を見ると胸の奥が痛むような熱いものがあふれているような不思議な感覚がする、俺はやっぱり水戸部が好きなのか、と自問自答すると胸の奥で何かが暖かく溶けた。

 

「コガー!こっちきて日向と話そうぜ!」
「伊月!久しぶりー!今そっちいくわ!」
「早く来いよーコガー」

 

わかったーと言うコガにいってらっしゃいと手を降る水戸部を見ているとケータイにメールが二通来た。

 

【from:日向 to:木吉 本文:しっかりやれよダァホ】
【from:伊月 to:木吉 本文:頑張れ木吉!>ω<】

 

「あいつら…!」

 

伊月と日向が気を回してくれた事に木吉はうれしくなり、結果はどうであれこの思いを伝えなくては、木吉はそう思い水戸部の前の席に座った。

 

「よう、水戸部久しぶりだな」
「(…、久しぶりだね木吉。退院おめでとう)」
「ん、ありがとな」

 

沈黙が続く、けれど木吉はいつものように天然ぶりながらいつものように話し始めた。
取り留めの無い大学の話や入院中の話しなどいろんな事を話したりしてその場を盛り上げていた。

 

「(本当に木吉は変わってないね)」
「そうころころ変われるもんでもないからな」

 

まあ…そうだね、と笑う水戸部を見て木吉は口に酒を運びながらつられて笑った。

 

「水戸部、好きだ」

 

突然の告白に水戸部は戸惑ったがいきなり自分の口からポロリと出てしまった木吉本人も戸惑った、だがここで変に取り繕って嘘だと思われたくない、その一心で話を続ける。

 

「ごめんないきなりこんなこと言って、でも入院してからすぐにわかったんだ…お前が好きだって…」
「(…、)」

 

ごめんな今頃こんなこと言って、とまた冗談めかして笑うと水戸部はしばらく辛そうな顔して唇を閉じていたがため息を1つつくとともに少しづつ話し始めた。

 

「(もう遅いよ何もかも、俺今敦く…紫原と付き合ってるんだ)」
「… っ!?」
「(木吉がアメリカに行ってから告白されたんだ、本当はずっと木吉が好きだったんだけどそれを知っても『いつか俺のことを見てくれればそれでいいから、好きでいさせて』って言って来てそこからちゃんと付き合うようになったんだ。だからごめん…)」

 

少し悲しそうな表情でうつむく水戸部に木吉は驚きのまま硬直した表情何とか元に戻し穏やかな微笑みを顔に浮かべた。

 

「水戸部、今幸せなのか?」
「(うん、幸せだよ)」
「そっか…俺ちょっと遅かったな…!」

 

ハハハ、と昔のように笑う姿を見せると少し安心したのか水戸部の口角が上がった。

 

「鉄平!あんたまだ体調完全に治ってないんでしょ?ほら特性プロテインスーパーどら焼き作ったからしっかりコレ食べるのよ!!あ、水戸部君もどう?」
「いや、今度食べることにするよ…!」
「(遠慮しとく…!)」
「今食べるべきよ!ほらほらちゃんとみんなの分作ってあるからね!」

 

監督の作ったどら焼きは薄紫の煙と明らかに食べ物が出してはいけないような機械音がカチカチと鳴っている、これを食べたら確実に病院送りになるとその場にいた一同がそう確信し逃げ回り夜が更けていった。


*******


「それじゃまた飲もうな!」
「次もまたまた誘って下さいね」
「おう!またな皆!」

 

飲み会も終わり木吉、日向、伊月の三人はみんなと別れて帰りながらしばらく無言のまま歩き続けたがしばらく歩くと木吉が口を開いた。

 

「ごめんな2人とも、もう遅かったみたいだ」
「…っそっか、」
「しかもな、水戸部俺がアメリカに行く前からずっと好きだったんだってさ」
「木吉…」
「でも今はちゃんと好きな人がいて幸せにやってるんださ」

 

なんでこうなっちゃったんだろうな…欠けた月を見ながらぼんやりと先ほどまでのこと思い出すと1つ、また1つと涙があふれ目からこぼれる。

 

「あれ、ごめん日向、おれ泣くつもりじゃ…」

 

少々乱暴にゴシゴシと目を擦っても一度溢れた涙は止まる術なく流れ続けた。

 

「お前はすげぇよ…」
「今日ぐらいは溜め込まずに泣いたほうがいいぞ、よしっ!日向の家で飲みなおすか!」
「あんまり騒ぐと追い出すからな!」

 

このダァホが!と吠える日向に伊月は少し酔っ払っているのか、ひゅーが冷たい!とケラケラと笑っている。

木吉の涙は止まらなかったが先ほどまでの悲しい気持ちはなくなり今は穏やかな気持ちで笑った。

プラトニックノイズ

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