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今日はスモークスクリーンとだから大丈夫。
冷静だった奴の姿を最後に見たのは、その日の夕方だった。
奴とスモークスクリーンの仲は知っている、が、お互いに恋人しか見ていないところがあるのも知っているし、奴の恋人はあのオプティマスだ。
だから浮気などは全く心配してはいなかったのだが。

「どういう事か説明しろ」
「いや、あの…これは…」

泣き腫らした顔で眠ったまま帰ってくるのは予想していなかった。
明らかな顔を背けたくなるほどの酒の香りとオプティックにわずかに残った泣き跡、挙句今はこの男に背負われている。

「貴様…!オプティマスからこいつに乗り換えたとでも言うのか⁉」
「乗り換えるつもりなんてねーっすよ!届けに来たのにこの言われようは酷くないっすか⁉」

話しが飛躍しすぎ!と怒りながらも背中から奴を剥ぎ取ると、やっと楽になったとでも言うように肩を回し腰を逸らし、奴の顔を覗き込んだ。

「ビーは今日、あんたとのノロケをいっぱい話した後に泣きながら愛されてないかもって騒いだんっすよ」
「愛されていないだと?我がどれほどこいつを…!」
「あーハイハイそういうのは俺じゃなくて起きたビーに行ってやって欲しいっす」

確かにそうだ、今こいつに当たり散らしても何の解決にもならない。
そう思いながら腕の中で眠る、奴の穏やかな顔を見て、ほんの少し温かな気持ちになった。

「なんか二人を見てたらオプティマスに甘えたくなったんで帰るっすわ」

んじゃまた、と言い残して帰って行った。
…やかましい奴だったな。
そう思いながら腕の中にいるこいつを見ると、とても気持ちよさそうな顔で眠っている。

「…ベッドまで運ぶか。」

軽い排気をしながらベッドに運び横にすると、ようやく気が付いたのか奴が目を覚ました。

「んん…すもーきー?」

奴じゃなくて悪かったな、と思いながらも言葉には出さず、そっと上布団をかけてやったがすぐに蹴り飛ばされてしまった。

「貴様…」
「あぇ、すもーきーはぁ?」
「帰った、お前はもう寝ろ」
「…ヤダ」

やだやだ…とうわごとのように言いながら、背を向ける形で寝返りを打ったこいつにだんだんと腹が立ってきた。
けれどここで酔っ払い相手に怒ってしまっても意味はない、そう自分を律しながら一つ排気しまたそっと上布団をかけたが、その数秒後にまた蹴り飛ばされたのを見て、自分の中の何かが切れたのを感じた。

「いい加減に大人しく寝ろ!貴様の帰りが遅くて我がどれほど心配したか!あの男の後ろに背負われたお前を見た時、我がどんな気持ちになったのか!お前に分かるか?!」

ベッドに横たわるバンブルビーの上に覆いかぶさり、頭突きをするような形で、感情のままに思いをぶつけたがバンブルビーはただぼんやりとメガトロンを見つめている、一度口に出してしまった思いを止められるほど、メガトロンの感情は容易なものではなかった。
けれどバンブルビーは未だぼんやりと見つめて来るだけで、その姿を改めて見るとメガトロンはようやく冷静になったのか、気持ちを静めた。

「…もし詫びる気持ちがあるのならもう寝ることだ、そしてこれからは深酒には気をつけろ」
「…おぷてぃますがね、こわいって言ってるんだって」

バンブルビーはメガトロンから視線を逸らすことなく、先ほどの話とは関係のない話を淡々と話し出した。

「すもーきーがね、せつぞくのたびに、いろんなことしてきて、そのたびにどんどん…どんどんじぶんがみっともなくなるのが、いやなんだって、おぷてぃますに言われたんだって」

ろれつもまともに回らないまま、バンブルビーはメガトロンを見上げて話を続けた。

「でもね、すもーきーは、おぷてぃますがだいすきだから、『どんなふうになっても、おれはきらいにならない』って言って、おぷてぃますがねても、ひとばんじゅう、すきだって、だいすきだって言って、てをにぎってたんだって…」

最後の言葉はわずかに震え、霞むように小さな声で言った後、バンブルビーは表情一つ変えることなくオプティックから涙を流して一呼吸排気し、また話を始めた。

「そのはなし、きいてたら、そんなこと、めがにされたことないぁって、めがはほんとうにす、き…なのかなぁ、って…おもっ、て…」

ついに言葉が大きく震え、声色にまで涙が感じられた。

「でも、そう、お、もっ、た、あと…!めが、のこと…!い、っしゅん…でもっ、うたがった…!のがっ…いやに、なって…!」

情けなくて、みっともなくて、申し訳なくなって、泣いてしまったらしい。
バンブルビーはそのまま何度も謝罪しながら、小さな子供のように泣き続けている。
その姿を見たメガトロンはただ黙ってバンブルビーの涙を掬い取った。
不安だったのだ。
それもお互いがお互いを疑ってしまうほど、途方もなく大きくて、けれど最初から存在しない不安にこれほどまで多感になり、お互いを疑ってしまった。
そのことを知ったメガトロンは、ベッドで眠っていたバンブルビーを抱き起こし、そのまま抱きかかえた。

「大丈夫だ」

一体何が大丈夫なのかもわからない、けれど今は泣きやませることが先だと、やつの頭を肩に乗せ、そっと背中をさすった。
今はこんな言葉しかかけてやれない、その事を恥じながらもう一度背中を撫でると、バンブルビーは声を隠すことなく泣き出した。



星が傾き、夜が深まる。
わずかに下がった気温と、抱きしめた暖かな温度をそっと撫でた。

「落ち着いたか?」
「ん…」

酔いが大分醒めて来たらしく、先ほどの事が恥ずかしかったのか頬がわずかに赤い。
まだオプティックに残っていた涙を指で拭おうと手を近づけると、そっとオプティックを閉じたバンブルビーの顔を引き寄せキスをした。
ほんの少し驚いた表情のあと、すぐにその唇を受け入れるようにメガトロンの肩に手を添え、何度もキスを繰り返した。
触れた唇が離れると、つぅ、とお互いの口から糸が伝い出た。

「はぁ、っ…めが…」

また潤んだオプティックにそっとキスをすると、バンブルビーは寂しそうにメガトロンの手に自分の手を絡めた。

「…まだ足りなかったか?」
「ん、そうじゃない…けど…」

けど、と言葉を詰まらせながらほんの少し手を握られ、メガトロンはバンブルビーを見るとほんの少し恥ずかしそうな表情をしながらためらうような視線を向けていた。

「…明日も仕事だろう」

早く寝ろと、とも、これ以上はダメだ、とも取れるような解釈の言葉を言ったのだが、バンブルビーは続きを言わせないようにキスをして言葉を封じた。
わずかに名残惜しそうに離れる唇と、恥らいながらも何かを伝えようとしている視線。

「お願い」

それは先ほど、信じていた思いを疑ってしまった事に対してなのか、泣いてしまった事に対してなのかわからなかったが。

「途中で泣いても知らんぞ」
「泣いても、やめないで」

そう言ってオプティックを閉じたバンブルビーの唇に再び触れた。
夜が深くなるのを感じた。

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