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​戦場

戦う時はいつだって本気だ。
少しでも私情を挟めば、途端にそこを突かれてしまう。
だからオプティマスは大戦が激化する前に、兄弟や友人がディセプティコンに行ってしまった者との話し合いは不可能だと思った方がいい。
まるで自分自身に言い聞かせてるみたいな言い方だったけど、バンブルビー自身もその言葉を深くスパークに刻んで忘れないようにしている。
たとえ、それが自分の旧友であろうと、自分の兄弟とも言える同期型であろうと。
それが自分の愛した人であろうと、敵になってしまえば、私情など関係ないのだ。

そんなことを思い出しながらバンブルビーはなんの戸惑いもなく、寸分の狂いもなくスパークめがけてブラスターの照準を合わせて砲撃するが、メガトロンのブレードが銃撃を二つに斬り裂いた。

「甘いわ!」
「BEEP!?」

メガトロンの攻撃も全てスパークを狙ってくる、当たれば致命傷は免れないどころか即死だろう。
…でも、だから。
本当だからこそ、お互いの道が正しいと信じているからこそ、道を踏み外したことが許せないのだ。
噴煙が舞い上がると視界が無くなる、けれど音がある。
バンブルビーは聴覚器に全ての神経回路を集中させ、土を踏む音、メガトロンの排気音、機体が重心を移動させる為に出す関節パーツが軋む音全てを聞き分けた。

「BEEP!」

そこだ!と煙の中をブラスターで撃つ。
…本当に好きだったんだ。
一緒にお茶会をしたあの日や、一緒に過ごしたあの日々。
今では全てがきらめいて、宝石のように輝いている。
けれど、憧れはいつしか醜くひしゃげ、自分の中で黒く変わった気がした。
…それが嫉妬だったなんて。
気づいた時にはメガトロンはディセプティコンになってしまい、オプティマスと決別してしまった。
本当はそんなもののために戦争を引き起こして欲しくなかったが、あの時の自分は彼を止める事ができなかった。
銃弾が金属に当たる音を聞き取ると、音のした方向に警戒体制のままにじり寄る。
太陽が厚い雲に覆われ、視界の光も半分ほどに遮られる。
濛々と立ち込める煙を、かき分けるようにして近づくと、風が煙をさらうように大きく流れてゆく。
音のした方向に視線を向けながら、オプティックに砂が入らないように、ほんの一瞬警戒体制を解くと。

「Be…!?」

そこにいたのはメガトロンではなく、どこにでもあるようなただの廃車だった。
バンブルビーがそれを知覚すると同時に、メガトロンが背後からカノン砲で攻撃して来た。

「いい加減諦めろ、この若造が!!」

メガトロンの声にほんの少しだけ悲しみの表情を浮かべた。
いつの間にか、バンブルビーと自分の名前を呼ばずに若造と呼ぶ事が多くなった事に最初は悲しんだが、名前を呼び変えた理由が今ではよくわかる。
…いつまでも昔にしがみついてられないって事ぐらいわかってる。
わかっているからこそ、今ここで殺さな無くてはいけない。
これ以上彼が道を踏み外さないように、これ以上彼が迷わないように。

「beep!」

半身をひねり銃撃をかわしながら、身を低くして一気に距離を詰める。
好きだからこそ、殺す事を戸惑わなかった。

「一騎打ちか!来い!!」
「Beep!」

ギラついた赤いオプティックの中に、メガトロンと同様に酷い顔になった自分が写り込む。
いつだっただろうか、あのまばゆい思い出の中、彼を驚かすつもりで、好きだよと言ったら愛していると言われ、なんとなく負けたような気分になった後に、どちらともなく笑った事を彼は覚えているだろうか。
バンブルビーはブラスターを構えて走り出した。

…もし別の世界があるなら、

前に出る自分とは反対に、粉塵が自分の後ろを駆けていく。

…一緒に歩みたかった。

いくらそう願っても2人に降り注ぐのは神の祝福ではなく、硝煙の溶け込んだ雨だけだった。

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