キスとしつけ
唐突ではあるが、今物凄くキスがしたい。
ソファの上で膝を抱え、横に座るメガトロンを横目で見上げた。
退屈そうに映像を見ていたが、視線に気がついたのかメガトロンがこちらを見てきた。
「なんだ?」
キスがしたい、なんて素直に言えないと気がつき、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「…なんでもない」
「おいなぜ目をそらした」
「別に…」
…ただキスがしたいだけなんて、言えるわけがない。
こっちばかりが好きみたいでなんだか恥ずかしい、バンブルビーそう思い言葉を噤んだ事に対してメガトロンは追求してきた。
「やましい事でもあるのか?無いならこちらを向け」
「無いけど…やだよ、今はやだ」
「…何か怒らせるような事をしたか」
特徴的な眉がわずかに下がるのを感じ、ほんの少し罪悪感を感じてしまうが、ここで折れて白状してもきっと笑われる。
…だったら。
いつもメガトロンがやっているようにこの話を強制的に終わらせて、他の話をしてみよう。
そう思いバンブルビーは膝を抱えるのをやめ、横に座るメガトロンの方を見つめた。
「めーが」
「さっきからなん…ん⁉︎」
ソファの上で膝立ちで立ち、メガトロンの肩に手を起き軽くキスをした。
けれど一回だけ唇で触れるだけだと決めていたのに、待ち望んでいた柔らかな感触にほんの少し身震いをしてしまう。
「ん!これでこの話はおしまい!そうそう実は昨日…」
「おい、」
「ふわっ⁉︎な、なに?」
じわじわと羞恥心が上がってくるのを感じ、早口で話をしようとしたが、メガトロンはバンブルビーの顔を片手で掴み、引き寄せた後そのまま押し倒した。
激怒したような表情をしているが、これはきっと。
「…照れてるの?」
「違う!」
「でもその顔…」
本当に怒っている時とは違い、照れ隠しの時に見せる怒りの表情に似た、今の顔の事を言おうとしたがメガトロンのキスによってふさがれてしまった。
「先ほどからチラチラ見てきたりいきなりキスをしたり…一体なにを考えてる!?」
「えーっと、それは…恥ずかしいから言いたくない、です……」
何か言われるかと思ったが、メガトロンはその後になにも言わずにじっと見つめてきて、バンブルビーは降参したかのように一呼吸排気して話し始めた。
「わかった!わかったよ!」
「やっと白状する気になったか、さあ何をしたか言ってみろ」
「キス…」
小さな声でそう言ったあと、さらに消え入りそうな声でバンブルビーは、キスがしたかっただけなの…!と答えた。
しばらく呆然としたメガトロンに対して、先ほどよりもさらに真っ赤になり、ついに手で顔を隠してしまった。
「そんなことか…」
「どうせ子供っぽいとか思ってるんでしょ…?だから言いたくなかったのに…」
「子供っぽいなど思ってなどはおらぬ、ただ…」
ほんの少しの静寂に、バンブルビーは伏せていた手をどけ、ちらりとメガトロンを見た途端。
「んう⁉︎」
その手を取り払われ、抑え付けられ。
そのまま奪われるようなキスをされた。
触れるだけのキスだったが、反論する暇なく何度も縫い付けるようにキスに酔いしれる。
「素直に言えばお前が望むようにしてやったのに、とは思ったがな。」
メガトロンの離れた口からは微笑が溢れ落ち、バンブルビーからは熱い排気が溢れ落ちた。
「これからは素直に言うことだな」
「…恥ずかしいから、無理だよ…」
「ほう」
「だから、」
潤んだ青いオプティックは黙したまま、下を向いたかと思うと、押し倒され乱雑に放り出された足を、そっとメガトロンの膝にすり寄った。
「…よほど躾けられたいらしいな」
「わかってるなら言わないでよ…」
メガトロンの押し付けていた手が解けたかと思うと、バンブルビーの黒い手の中に滑り込んできた。
その手を少しだけ握ると、小さな手はそれに答えるように握り返してきた。