top of page

子供

機体をバージョンアップさせてから、周りからは「かっこよくなった」とか「立派になった」とか、いろいろなことを言われ少しむず痒いような誇らしい気持ちになっていたのだが。

「お前は相変わらずかわいいな」

メガトロンだけは変わらなかった。

「この機体、前のと違ってなかなかかっこいいと思うんだけど…」
「我から見たら大差ないぞ」

あまり変わりがないと言う言葉にむっとしてしまう、がこんなところで怒っていては、大人らしくない。
…バージョンアップに伴って大人になったところも見せないと!
そう思い、心を落ち着かせ、言葉を作った。

「でもみんなかっこいいって言うんだし、メガトロンもかっこいいって言っていいんだよ?」
「だが我はお前をかわいいと思うぞ」
「~!でっ、でも少しぐらいかっこいいって…!」
「ならかっこいいところを見せて見ろ」

出来るか?と言われ、バンブルビーはグッと出かかった言葉を飲み込んだ。
かっこいいところ、と反復して言った後自分なりにかっこいい所を考えた。
高い所のものが台を使わずに取れるようになった所だろうか、それとも苦手な食べ物を好き嫌いせずに食べれるようになった所だろうが。
どれもなんだか違う気がしたが、しばらく考えていると自分がした中で一番かっこよく、尚且つ大人な行動を思い出した。

「かっこいいことした話を聞いたらかっこいいって言ってくれる?」
「無論だ」
「フフ、これを聞いたらメガもかっこいいって言わざるを得ないよ…!」
「ほう、」
「前の機体の時は好きなお菓子とかは袋開けたら全部食べちゃったの」
「それで?」
「でもこの機体になってからはちゃんと我慢できるようになったんだよ!お徳用パックも間食しなくていいようになったんだ!」

メガトロンはほんの数秒動きを止めたかと思うと、いきなり笑い出した。
それも大爆笑している。

「な、なんだよ!もう!メガのバカ!いい加減かっこいいって言えよ!」

バカァ!と言ってメガトロンのいるリビングから逃げ出そうとしたが、あわて過ぎたのか何もない所で盛大に転んでしまった。
更に笑うメガトロンの声に、羞恥のあまり消えてしまいたくなるが。

「まぁ落ち着け」

メガトロンに抱き起され、そのまま後ろから抱えられるようにソファーに座らされた。

「どうせ俺は今も昔もかわいいお子様ですよ…」
「笑ったことは悪かった、だから機嫌を直せ」
「うるさいバカ」

これではもう本当にお子様だ、そう思うとさらに情けなくなり気を強く保っておかないとオプティックから涙が溢れてしまいそうになる。

「我はお前にちゃんとかっこいい所があるところぐらい知っている」
「…どうだか」
「少し前にお前の忘れ物を届けに行ったことがあっただろう?」

その日の事はたしかに覚えている、家に忘れた資料をメガトロンが届けてくれただけのはずなのだが、それのどこがかっこいいのだろう。
完全にへそを曲げたバンブルビーはツンとした態度のままそっけなく、それで?ととげとげしく聞き返した。

「あの時のお前はとても真剣な眼差しで銃を握り、狙撃の練習をしていてな、その時のお前の表情はとても凛々しくて声をかけるのを躊躇した」
「…?」
「…かっこよかったと言っているんだ」
「あぁ!」

確かに銃を使う訓練は気が抜けないし、気が入ることで表情が険しくなったのだろうとすぐに分かったがその表情を見てかっこいいと思っただけではなく、話しかけるのを躊躇したと聞いて、先ほどまでのくすんだ気持ちはどこかに行ってしまった。

「ちゃんとかっこいいって思ってくれてたんだ…!」
「我を誰だと思っている、お前のどんな表情もすべて把握している」

惚れた者としてそれは当然だろう?と聞き返してきた。
その言葉にさらに舞い上がってしまう。
…悔しいけど、メガにはやっぱり叶わないな。
そう思うとバンブルビーはメガトロンの腕の中から抜け出し、そっとキスをした。

「今もかっこいい?」
「…いや、今は違うな」

今は、と言いながらメガトロンはバンブルビーにキスをし返すと、少し笑った。

「愛しい、だ」

bottom of page