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カレンダー

よくリビングのカレンダーには書き込みがされている、奴がいつからいつまでの出張するとか、ゴミ出しの日はいつとかが色とりどりのペンで書かれているが。

「なんだこれは…」

メガトロンは首を傾げてカレンダーに貼られたシールを見つめた。
ひまわりの可愛いシールにはどんな意味が含まれているのかを考えたが、まったくわからなかった。
…本人に聞いてみるか。
少し負けたような気分になるが、わからない事をわからないままにしておくよりはマシだろうと、メガトロンは洗面台で顔を洗っていたバンブルビーに話しかけた。

「…おい」
「ん、なに?どしたの?」
「なんだこのシールは」

はた、と理解していない顔をしていたがしばらくすると、バンブルビーは顔を真っ赤にさせて声を詰まらせタオルで顔を隠した。

「あ、え、えと…まだ、ひみつ…」

今は、まだ言えない…とだんだん小さくなる声にメガトロンは自分の中から溢れ出そうになる感情を抑えるため、わざと苛立った顔をして舌打ちをした。

「また仕事の付き合いか?」
「ううん、そういうのじゃないよ」
「お前が出張とかでどこかに行くわけでもないのだな?」
「…その日は、その、ずっと家に…いるし…」

だから、その…とタオルを頭から被り小さくなって顔を隠す姿に、メガトロンは自分自身を落ち着かせるために一呼吸排気をしてバンブルビーの頭を撫でた。

「言いたくないのなら無理に言わなくていい」
「ごめん…」
「謝るな」

でも、と言葉を出そうとしたが、出し切る前に途中で言葉を飲み込んだ。
…これじゃ水の掛け合いだ。
こんな事ではダメだと、バンブルビーは頭を撫でるメガトロンの手を取った。

「メガ、買い物行こう!」



日も暮れた夕方。
日用品と食材が入った袋を持ちながら二人でたわいもない会話をしながら帰路についている。
歩くたびにガサリと、バンブルビーの持っている袋が風に揺れて音が聞こえる。
たわいもない会話をしていてもその音は聞こえ、その度にバンブルビーはメガトロンの持っている袋に視線が入ってしまう。
…最初の一袋は重い物を入れて、次の物は軽いのを入れたんだ。
けれどあの時、カゴの中に入れられた物が全て袋に入ったのを見たあとに一言、行くぞと勝手に重い方の袋を持って出口の方に向かっていった。
ただ、それだけなのに。
…そういうところが、たまらなく好きだなんだ。
さっきの時も秘密にしておきたい事を無理に聞き出そうとしなかったり、いつの間にか重い物を持ってくれたり、そんな優しさを感じる度に、バンブルビーの胸は情けないほどにときめいてしまい、この人が好きだと心が叫んでしまう。
こんな事本人には決して言えない…と思いながら会話を返していると。

「メガトロン!」
「オプティマス…⁉︎」

前方からオプティマスが走ってきた。

「やっぱりバンブルビーと一緒だったか…」
「何の用だ…」

メガトロンから、よくも会話を遮りおって…と言いたそうなオーラを感じたがオプティマスはそんな物に気が付かないまま話を始めた。

「今度オートボットとディセプティコンが和平を結んだ記念に懇親会をやろうと思うんだが…どうやら店の都合でこの日しか空いてないんだ…」

そう言いながら店の情報が入ったデータパッドをメガトロンに渡した時に、バンブルビーはその懇親会の日の日付が視界に入ってしまった。
その日はひまわりのシールを貼ったあの日だが。
…仕方ないよね。
データパッドを眺めるメガトロンの横顔と、楽しそうに話すオプティマスの顔を見て、バンブルビーは影を落とした。
戦争が始まる前はお互いのことを兄弟と呼び合い、親友だった2人と今は恋人だがオプティマスよりも後に知り合った自分とでは火を見るよりも明らかで。

「…行って来なよ、楽しそうだし」

比べるまでもないだろう。
バンブルビーは本心とは裏腹な言葉を並べメガトロンに後押した。

「そうだな、今まで殺しあっていたがここらで仲良く酒を酌み交わすのもいいだろう」

あぁやっぱり、と思いながらバンブルビーはそっとメガトロンから視線を外し、足元を見た。
本当は行って欲しくなかったが、自分はまだオプティマスと比べたらどちらに行くかなど目に見えていたことなのだが。
…やっぱりちょっと寂しいかな。
そんなことを思っていると、急にメガトロンがバンブルビーの肩を抱いた。

「だがこの日はこいつと過ごしたいので断らせてもらうぞ」

オプティマスにデータパッドを押し付けたあと、帰るぞ、と言ってメガトロンは何事もなかったように歩いて行ったので、バンブルビーは慌ててその後をついていった。

「め、メガトロン!」
「なんだ」
「なんだ、って…いいの⁉︎」

オプティマスの誘いを断ったこと、自分との約束を優先したこと、秘密だと言っていたのでどんなことをするのか分からないのでそちらを優先したこと。
全てに対して話をしたかったが、メガトロンはただ前を向いて歩いている。

「この懇親会だって初めてのことなんじゃ…」

もしかして自分を選んでくれたんだろうか、とほんの少しだけ嬉しくなってしまうがメガトロンの事だ、先約があるのにそれを断るわけにはいかないとか、きっとそういう理由だろう。

「我には懇親会よりお前との約束の方が大事だ」
「…っ!」

ただの一言に情けないほどに舞い上がってしまう。
スパークが高鳴り火花を散らすような感覚に、思わず表情が緩んでしまい、胸の内に閉じ込めていた感情が溢れてしまう。
…そういう所が、好きなんだよ。
こんなにも些細な事なのに、こんなにも思いが溢れてしまうなんてきっと自分だけだろう。
けれど、それでも。
…すごく嬉しい、なんて。
そんな事を思うなんて自分はまだまだ子供なんだろうけど、今はまだ子供でいい、とバンブルビーはそっとメガトロンの横を歩いた。

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