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朝食

朝起きると、ほぼ毎回メガトロンの腕の中にいる。
別に嫌と言うわけではない、ずっと前から恋人だし、もう数えきれないほど接続もしたような仲なのに、寝るときは別に抱きついていないのに、だ。
ペタン、とフライパンの上でホットケーキがクルンと舞う、それをメガトロンが皿で受け止めるのを後ろでバンブルビーはぼんやりと眺めていた。

「…メガってさぁ、」
「なんだ」
「ハグ大好きだったりする?」
「いきなり何を言ってるんだ…」

メガトロンは呆れかえったような表情のまま、大皿に盛った朝食を持って来た。
ホットケーキにサラダにヨーグルト、どれも健康的な食事だがどれもなんだかかわいい。
ふんわり焼いたホットケーキに、色とりどりで一口サイズに切り分けられたサラダ、上にジャムでハートマークが描いてある。
…これを作ったのが、このメガトロンなんだよなぁ。
一緒に住んでいると、たまに信じられないようなかわいい事をするのだが、それについてはもう何も言わないようにしている。
ここに何か言ったらメガトロンの自尊心を傷つけてしまうか、怒ってへそを曲げかねない。
過去にそう学んだバンブルビーは、自分の前に置かれた朝食を見て、メガトロンの後に続いてイタダキマスと声を出した。

「大体何で我がお前の中でハグが大好きになってるんだ」
「…だって、毎朝起きたらいっつもメガの腕の中にいるし、んむ、寝るときは別にハグしてないのに…」

会話の途中でもバンブルビーの口の周りにドレッシングがついても、メガトロンは会話をさえぎる事が無いようにそっと拭い、言葉を返した。

「仕方がないだろう、お前は寝相が悪いからほおっておくとコロコロコロコロとベッドの上を勝手に転がって、最終的にベッドから落ちるからな」

確かに、メガトロンと同棲してからベットからおっこちて、床で寝ていることは無くなった。
けれどそれはメガトロンと同じベットで寝るようになってからは、もうとっくに直ったとばかり思っていたが本当はメガトロンによって抑えられていたらしい。

「…いつから知ってたの?」
「初めて床を共にしたときからだ」

…そ、そんなに前から…。
と、自分の寝相の悪さに驚きつつも、皿の上のパンケーキにナイフが刺さり、メガトロンの綺麗な指の動きに合わせて切り分けられていくのを眺めていた。

「だいたい、お前の方こそ抱きつくのが好きだろう」
「んむぅ?!」
「飲み込んでから放せ」

ほら、と飲み物を渡されると、バンブルビーは口に詰めていたパンケーキを飲みの物で一気に流し込むと、身を乗り出して話をはじめた。

「ハグが好きなのはメガでしょ!」
「さっきの言っただろう、お前が転がり落ちんようにしているだけだ」
「で、でも…こっちは別に…」

好きなんかじゃ…!と言い終わる前にメガトロンは同じように身を乗り出して、バンブルビーの口にキスをした。
突然の事に驚き固まっていると、メガトロンは不敵に笑い言葉を作った。

「お前はベットの中で転がっている時は何かに悩んでるような表情だがな。我がお前を抱きしめると、お前はとてもうれしそうにすり寄ってきているのだぞ?」

嘘だ、そんなわけがない、ありえない、と言いたくても、言葉が一斉に声帯回路に集まりすぎて、一つの言葉すらまともに出ない。
言いたいことが言えずにぱくぱく口を動かしていると、メガトロンは何かに気が付いたのか、また頬にキスをしてきた。

「なっ?!」
「お前は寝相云々を言うよりも先に、食べ方をもう少し何とかしろ」

ついていたぞ、とメガトロンは自分の頬に指をさしてジェスチャーすると、バンブルビーはハッとなり自分の頬を拭ったがそこにはもう何もなかった。

「…態度よりも先に口で言ってよ!」
「口で、示しただけだ」

メガトロンは不敵な笑みを浮かべながら、自分の食べ終わった皿をかたずけていた。
…メガトロンのバカ!
してやられたバンブルビーは、もう!もう!と行き場のない感情をぶつけるところが無いままになっていた。
…ほんとに、もう。
大好きなのが辛いなんて、一緒になる前にはこんな気持ちになるなんて考えたこともなかった。
はぁ、と一呼吸排気しながら離れていく、メガトロンの後ろ姿を眺めた。
…どうしよう、今ものすごく抱きつきたい。
椅子に座りながら、残ったサラダを口に運んだ。
どうやらハグが好きだったのは、自分の方だったらしい。

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